はじめは個人薬局
私が一番はじめに勤めたのは、近所の個人薬局でした。門前の小児科の処方箋を主に受け付けていて、ごくたまに広域の処方箋がきました。薬剤師の数は4人、一日の処方箋枚数は80枚くらいでした。そこの先生はアレルギーにも精通していて、風邪以外にも喘息やアトピーなどのアレルギー疾患の患者さんも多くいました。
私がなぜその薬局に就職したかというと、知り合いから人手不足のため手伝ってほしい薬局があると相談をもちかけられたからです。私は、手に職をつけたいと思い薬剤師になりましたが、当時、どんな薬剤師になりたいか明確なビジョンはありませんでした。ただ、小児科は特殊な科なので、一度経験しておきたかったのと、家から近いこと、給料が年収600万ということ、残業がほとんどない、週休2.5日ということで働くことを決めました。こじんまりとした薬局で、スタッフの雰囲気もよく、アットホームな働きやすい薬局でした。
初めての薬剤師としての仕事のため、働き始めて数カ月は、覚えることもたくさんあり忙しい毎日でした。しかし、だんだんその職場に慣れてくると、小児科だけという単一の処方に飽きてくるようになりました。おまけに小児科は一年のうちで繁忙期と閑散期がはっきりしており、特に夏場の閑散期は処方箋枚数も少ないため暇な時間が増えました。しかし、給料も未経験者にしては多く払ってくれ、その点ではもちろん満足していましたが、自分の知識が広がっていないことに焦りを感じ始めました。その焦りは、ある日、大学の同級生達と会い話しているうちにさらに大きくなりました。その同級生達は、地元では有名な大手チェーンの調剤薬局に就職し、主な処方応需科目も数科目あるような薬局に勤めており、その会話についていけていない自分がいました。そこで私は転職を決意しました。
どこに転職するか考えてみた
薬剤師の就職先としては、製薬会社や調剤薬局、ドラッグストア、病院と様々です。また、製薬会社は外資系の会社もあったり、調剤薬局も規模も様々で、在宅を行っているところがあったりもします。病院に関しては、急性期の病院や療養型の慢性期病院など多岐に渡ります。多くの診療科目の処方箋がくる総合病院の門前の調剤薬局への転職も考えましたが、以前から機会があれば病院薬剤師へ挑戦してみたいという気持ちがあり、28歳という年齢からも、挑戦するなら今しかないという気持ちがわいてきて、病院への転職に向けて動き出しました。
見学に行ってみた
私は見学に行った病院は3つありました。一つ目は家から徒歩圏内の150床程度の療養型の病院、二つ目は500床程度の総合病院、三つ目は900床程度の大学病院とタイプや規模の違う病院でした。
まず一つ目の療養型の病院は、薬剤師数は3人であり、夜勤なしでオンコールあり、療養型の病院のため処方変更が少ない、正社員での募集、年収は経験にもよるが、400万程度とのことでした。入院患者は高齢者が多く、状態が安定している人が多いせいか、薬剤部内の仕事風景も、殺伐とした様子はなく落ち着いて仕事をこなせる雰囲気でした。ただ、病院で働けたら、注射業務や病棟業務をしてみたいと思っていた私でしたが、注射業務に関して払い出しばかりの上、抗がん剤の扱いもほとんどなく、期待していたものとは違っていました。病棟業務に関しても、やっていないことはないですが、認知症の方、脳梗塞後の患者が多く、十分な意思疎通が行えない方も多数おられ、十分に行えていないようでした。
二つ目の500床程度の総合病院は、診療科目は多いけども医師不足が深刻で、小児科や産婦人科など入院患者は受け入れているが、外来診療をやめている科もある病院でした。ここも正社員での募集でした。薬剤師は20人程度で、月2回ほど夜勤があるとのことでした。業務内容としては、注射業務も払い出し以外にミキシングもあったり、抗がん剤の取り扱いも多数ありレジメンをもとに投与量や投与間隔をチェックしたりしているとのことでした。
三つ目の大学病院は今まで見学してきた二つとは比較にならないほど、忙しそうな職場だなという印象を受けました。少し前に外来は院外に出すようにしたから、そのころに比べたら落ち着いたと薬剤部長は言っていましたが、それでも入院患者分だけでも多くの処方箋が発行されていました。薬剤師数は30人、病棟業務指導加算の算定ができるようになり、すべての病棟に薬剤師が配属され、積極的に病棟業務を行っているとのことでした。夜勤は月2-3回程度あり、休日・祝日の出勤も月に何度もあるとの説明でした。また、DI業務や治験業務、製剤業務など、業務内容は多岐に渡っていました。
見学後の感想
3か所の病院見学を終えて、感じたことは、当時私はまだ独身だったので家庭との両立を考える必要もなく、バリバリ働きたいと思っていたので、療養型の一つ目の病院は業務がのんびりしすぎていて物足りなさを感じました。二つ目の病院に関しては、診療科目も多く、様々な疾患の患者さんもおり、勉強になりそうでしたが、政治的なことが絡んでいる病院で、業務以外に気にしないといけないことが多いとの話を聞き、薬剤師としての仕事のみに集中したかった私は転職先の候補から外すことにしました。
最後に見学に行った大学病院についてですが、経験を積むにはとても良い職場と思いましたが、マイナス面としては、給料の安さや、その激務に私が耐えられるかということを思いました。しかも、見学に行った当初は、病院として薬剤師を正社員とし雇の枠はなく、嘱託の枠もなく、アルバイトでの入職ならできると言われました。それもいつ嘱託に上がれるかも分からないし、正社員にいたっては、試験はあるものの、入職順に上がっていき、それも誰か正社員が辞めない限り枠がないので、いつになるか分からないとのことでした。それに加え、小児科しか経験のない私が働けるのか不安も多かったですが、それよりも「スキルアップしたい」「挑戦してみたい」という気持ちの方が勝り、大学病院に入職希望の旨を伝えました。
実際働いてみて
実際病院で働いてみてどうだったかというと、日々目の回るほどの忙しさで、あっという間に一日が終わっていきました。 まず、勤務初日までに内規を読み込んでおくよう部長からの指示がありました。指示通り、何度も読み込んで初日を迎えました。はじめは調剤室に配属され、内服・外用の調剤を行いました。ごく簡単な説明はあったものの「内規は読んできたよね?じゃあ、それがすべてだから、それに沿って仕事を始めて」と言われ、すぐに業務に取りかかりました。医師が入力する当日・翌日分の処方に加え、定期処方と言われるすこし先の処方、加えて、一部の外来患者の処方とすごい枚数の処方箋が次々と発行され、さばいていくといった感じでした。その合間に、医師や病棟からの電話も鳴りやまず、薬に関する質問に答えていくことも行いました。また、近隣の調剤薬局からの院外処方箋に関する問い合わせも多く、その対応も並行して行いました。採用薬もとても多く、始めのうちは調剤、監査に時間を要していましたが、3カ月もすればだいぶ慣れてきました。
その後、3年の間に部署異動で、注射業務やミキシング、DI業務や学会発表も経験しました。また、神経内科の病棟ももたせてもらえ、持参薬鑑定や服薬指導、退院時指導の業務も経験することができました。調剤薬局のときは、投薬時、患者さんとの距離を感じていましたが、病棟での服薬指導は、その距離が近いように感じました。毎日病棟に出向き副作用が出ていないか、服用に際して不安なことはないかなど確認しているうちに信頼関係が出来上がる場合もあるからかと思います。また、新規開始薬剤については医師から「〇〇を開始する患者がいます。指導お願いします。」と依頼があることもしばしばで、薬剤師も介入しやすい環境にありました。病院勤務は初めてだった私ですが、服薬指導は薬局でしていたものを基本的なことは同じなので比較的スムーズに行えました。
病院特有に業務の一つに夜勤があります。私の勤めた病院では16時から次の日の9時までの勤務で、一人体制の夜勤でした。処方箋枚数は300枚を越すこともあり、処方内容も麻薬や抗がん剤、外来の対応もありなかなかハードなものでした。 あと、私は参加する機会はありませんでしたが、薬剤師も感染や褥瘡、NSTなどチーム医療に参加していて週1回回診同行やカンファレンスへの参加もありました。
入職前までは、漠然と病院勤務ではスキルアップができると思っていました。実際働いてみて、その他にもいくつもメリットがあると感じました。まず一つ目は、カルテを閲覧できるため、病状や治療方針を把握でき、処方意図を確認できます。薬局では、処方から推測したり患者から聞き取ることでしか情報を得ることができず、なかなか処方意図を把握することができないため、服薬指導というより、薬を渡すだけになってしまう場合も少なくないからです。次に、チーム医療の一員として活躍できるため、他職種と連携して治療方針を考えたりと、思い切り職能を発揮できることです。また、病棟業務を行うことで入院から退院までを通して患者と関わることができるのもメリットかと思います。入院時の持参薬鑑定にはじまり、新規開始薬剤があればその指導を行い、副作用発現がないか、服用する上で問題はないかなどを確認します。退院に向けては、退院後の患者の生活状況などを考慮し薬剤管理の提案や指導ができます。あと、職場空間が広いというのも良い点ではないでしょうか。 部署も多く、病棟業務や外来業務もあるので調剤薬局に比べ広い職場空間であるため、息苦しさが少ないです。
逆に、分かっていたけど、きつかったなと思ったことは、やはり給料の安さと、休日業務や夜勤があることです。特に夜勤は、夜中に起きていることで生活リズムが乱れ、夜勤明けで休息をとってもなかなか疲れがとれませんでした。3年間勤務し、アルバイトから嘱託職員、それから正規職員になりましたが、給料は、調剤薬局での給料と比べると200万円低かったため、仕事のプレッシャーや体力的な負担の割に合わない数字でした。
大学病院を辞めてからの転職
その後結婚を機に、夫の住んでいる場所へ転居するため大学病院を退職しました。夜勤もあり、処方箋枚数も多く、重い疾患の患者も多かったので、体力的にも精神的にもきつい職場でしたが、仕事自体これからおもしろくなりそうなところだったので残念でした。 病院薬剤師としてのやりがいやおもしろさを感じていた私は、本音を言えばまた病院で働きたいと思っていましたが、今回の転職は家庭との両立を考え、調剤薬局を希望しました。その他の事情もあって、派遣薬剤師として仕事を探しました。派遣薬剤師として働くということは、急な欠員などで即戦力として働けることが求められる場合が多いです。そのため、多くの診療科がある病院で働いていた経験は、履歴書面でも相手に即戦力としての安心感を与えます。そして、条件が合い働くことになってからも、環境や職場のやり方にこそ慣れる時間は必要でしたが、今までの経験からだいたいの調剤・服薬指導の面では対処できました。
私の場合、派遣での勤務態度や薬局への貢献が認められ、派遣の契約満了をまって社員にならないかとの話をいただくことができました。また、現在3人の子どもを抱えながらの勤務のため、子どもの病気での急な休みや保育園からの呼び出しで、仕事に出られないことも多々あります。その度、スタッフには迷惑をかけ申し訳ない気持ちでいっぱいですが、今まで培ってきた知識の幅と、臨床経験を積んできたことが認められ、勤務できるときに思う存分その力を発揮することで薬局側からも信頼され、スタッフ間の関係も悪くならず働かせてもらっています。
まとめ
大学病院への転職当初は、「大変な職場に転職してしまったな。」と思い、自分の知識のなさや覚えることの多さ、にへこたれそうになりましたが、3年勤めあげた今、その経験は私の中でとても大きなものになっており、日々の業務への自信にもなっています。病院薬剤師に挑戦したいという気持ちを大切にしてよかったと思います。